王子は香水姫を逃さない

旅立ち

 ゴオっと言う音がして、丘に強い風が吹いてきた。

 羽の付いた帽子が飛び、金色の髪がたなびいた。
 青い乗馬服をすらりと着こなしたアーサーが、緑色の瞳を眇めて城下を見下ろしている。
 
 二人でいつものように丘の頂上まで馬で来た。ここなら、だれにも見られない。

 アーサーは、私を抱き寄せると黒髪をなでながら、息を吐いた。
 「ロゼリア。二日前、バージニアから使者が来た。」

 エセンはバージニアに農産物などを輸出しているが、鉄鉱石などはバージニアから輸入しており、自国でエネルギー生産ができない。

 常に侵略の危険にさらされているため、エセンのような同じ状況の他国は、バージニアに人質か婚姻関係によるつながりを作る。

 アーサーの叔母がバージニアの王子に嫁いでいたが、先月亡くなった。
 子供もいなかったため、今後の関係がどうなるかとアーサーが以前から気をもんでいた件だ。

 「そうですか。私に話されるということは、決心されたということですね……。」


 
< 1 / 92 >

この作品をシェア

pagetop