王子は香水姫を逃さない
 皇太子に返事をする。
 「そんなことはない。そなたも気に入った。……女将、また来る。」

 「ありがとうございます。お待ちしております。」
 サラは上機嫌で答えた。

 皇太子が通りすぎ、後ろからアーサーが少し間をあけて付いていった。

 そのままロゼリアの横に来たが、止まらずに歩きながら耳元で素早く言った。
 「……どういうことかな、ロゼリア……」と。

 誰にも聞こえないようなささやきだったが、ロゼリアはびっくりして、勢いよく頭を上げてしまい、めがねが鼻からずり下がったのに気づかなかった。

 その瞬間アーサーと目が合った。
 アーサーがふっと笑い、一瞬ロゼリアの右手をぎゅっと握ってすぐに離れていった。

 ロゼリアはぼーっとして立ち尽くし、アーサーの後ろにいたキースが手を口元にやり、苦笑いしているのを真っ赤な顔で受け止めるしかできなかった。
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