王子は香水姫を逃さない
 ……ハックション。あれ、誰か私の噂しているのかしら……。

 「ロゼリア様、大丈夫ですか?お風邪でもひかれてしまいましたか?」
 エリンは、大きなくしゃみをして涙目のロゼリアに尋ねた。秋に入り、夜が涼しくなってきている。

 「まさか、アーサー様にすぐにばれてしまうなんて。こんなはずじゃなかったのに。」
 ロゼリアはエリンと向かい合わせでベッドに腰掛けながら話した。

 「そうですねえ。私はちょうど昼休憩でキース様にお会いできず、がっかりですけど。」
 「キースは相変わらず元気そうだったわよ。大丈夫よ、そのうち会えるわ。私がいるとばれた以上、アーサー様が何もしないとは思えないしね。問題は……。」

 「問題は、何ですか?」
 キースに会えるかもとウキウキしたエリンが、頭を傾けてかわいい顔をしながら聞いてきた。
 
 それはね……皇太子様が私の手を握ったことよ、とはエリンにはさすがに言えなかった。
 ロゼリアにも多少社交界での経験がある。皇太子が自分を見る目の色は、色気をにじませるものだった。
 警戒心を抱かずにはいれない。この先、何が起きるか分からないと思いながら眠りに就いた。

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