王子は香水姫を逃さない
 
 懐かしい、アーサーの文字。微かに香るカモミール。
 ロゼリアは手紙をぎゅっと抱きしめ、キスをした。
 そして、手紙は指示通り、暖炉へ粉々にして入れた。

 湯浴みを終え、香料をつけた黒髪には艶が戻ってきた。
 久しぶりにドレスを身にまとい、軽く化粧をした。
 鏡に映っている自分を見ると懐かしいような、不思議な気持ちになった。

 「ロゼリア様。相変わらずお美しゅうございます。これでは、皇太子様も姫をお好きになってしまいそうですね。」
 エリンは鏡のロゼリアににっこりと笑いかけた。

 ……笑い事じゃないわ。アーサーは気づいている。
 皇太子に気に入られたりしたら、大変だわ。
 
 「そんな風にはならないわ。今日は商品を売りに来たのよ。」
 「ロゼリア様ったら。でもアーサー様一筋ですものね。」
 「キースに会ったら、アーサー様にご心配には及びませんとお伝えしてちょうだい。」

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