王子は香水姫を逃さない
 
 商品を作るのも、使用人を大勢お父様にお借りして、総動員でやっている。
 引っ越しの準備はエリンに任せきり。

 まあ、自分のもので持って行くのはほんの少しの洋服など。
 なにしろ今後は舞踏会もないしね。

 必要なのは、商品を作るための道具類。

 あっという間に、アーサーの出立日が来た。
 
 「ロゼリア。愛してる。必ず迎えに来るから、待っていてくれ。」
 そう言って、彼は私の左手を恭しく持ち上げて、キスをした。

 私は、アーサーに金色の刺繍をした袋を渡した。
 「アーサー様。この刀袋は旅のご無事を祈って作りました。良かったら身につけてくださいませ。」

 「ありがとう。……刀を入れて、常に身につけるよ。……ああ、この香りは、僕の好きなあの花の香りだね。」

 私の作った刀袋には彼の好きなカモミールを縫い込んである。
 この香りさえあれば、彼がどこにいてもロンが気づいてくれる。

 これで、私はいつでも彼を見つけられる。
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