もう一度あなたに恋したときの処方箋
再会
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いくら居心地のいい部署でも、システム管理部に閉じこもってばかりでは息が詰まる。
だから私は、ランチタイムくらいはできるだけこの部屋から出るようにしている。
エリちゃんと都合が合えばチョッと奮発したランチにしたり、お天気のいい日は公園でサンドイッチとかを食べたりしていた。
今日は、ひとりのランチ。
コンビニにでも行こうかとロビーを通りかかったら、早口のスペイン語が聞こえてきた。
我社でも生え抜きの受付の美女たちも、スペイン語は英語やフランス語のようにはいかなくて焦っているようだ。
どうしようと思いながら受付に顔を向けたら、丸々とした体躯の中年男性がスペイン語でまくしたてている。
彫りの深い顔立ちや濃い眉から生粋のスペイン人らしいし、ものすごい早口だから余計に聞き取りにくい。
こんな場所で目立ちたくはなかったけど、スペイン語が懐かしくて自然に足が向いてしまった。
「どうなさいましたか?」
「ああ、スペイン語が通じますね!」
その人は飛び上がりそうなほど喜んでくれた。
受付の人たちもホッとしたようで、話を聞いてくれと頼まれてしまった。
男性は、日本には初めて来たという。
タクシーを降りてから珍しくてウロウロしているうち、通訳の人とはぐれてしまったらしい。
仕事で訪ねる予定だった会社の住所はスマートフォンにメモしていたから、なんとかこのビルまでたどり着けたという。
私が事情を受付の人に細かく通訳すると、彼女たちはさっそくあちこちに連絡を入れてくれた。
担当者は捕まらないが、その人の上司が駆けつけてくれるらしい。
スペイン人の男性にはとても感謝された。
私も久しぶりにスペイン語を思いっきり話せたのが嬉しくて、会話が弾んでしまったくらいだ。
ふと気が付けば、周りの人たちがチラチラこちらを見ている。
(しまった!)
なんとなく注目を浴びていると気が付いて、私はそそくさと逃げることにした。
あとは受付の人たちにお願いして、近くのコンビニまで駆け出した。
(私の貴重なランチの時間がなくなっちゃうところだった)
サンドイッチとカフェラテを買って、公園のベンチでひと息つく。
そろそろ秋らしくなってきて、気持のいい季節だ。
(お姉ちゃんに会いたいな)
スペイン語のおしゃべりで、姉が恋しくなってしまった。
私はハムサンドを食べながら『お正月休みに会い行こうかな』なんて呑気に考えていた。