もう一度あなたに恋したときの処方箋
「今日、スペインから商談にみえる予定だったガリシア州のワイナリーオーナー、アコンチャさん」
「ええ、少し遅れて来られましたよね」
「お昼休みに突然受付にお見えになって、大変だったんだよ」
岡田部長はジェスチャーを交えながら大変さをアピールしているが、高木次長はいたって冷静に答えている。
「そうだったんですか」
「受付嬢はパニックだし君はつかまらないし……。慌ててロビーへ降りてみたら女子社員が和やかに会話してて、びっくりさ!」
「へえ~、どこの部署の社員ですか?」
部長の言葉に反応が薄いのを見ると、次長は半信半疑のようだ。
「それがね、わからないんだよ」
「うちの社員でしょ?」
「そうだけどね~見たことないくらい地味な子だから記憶にないんだ」
『役に立たないな』と声には出してはいなかったが、そう思わせる視線を岡田部長に向けている。
(これはヤバいかも! 早く鞠子に知らせないと!)
絵里は気が付いた。スペイン語が話せる一見地味な女子社員と言えば、間違いなく鞠子だ。
(あの子は目立ちたくないはずなのに、どうしてこうなった⁉)
コソコソとドアに向かおうとしたら、岡田部長に声を掛けられた。
「ねえ、日下さん、あなた総務だから女子社員のこと詳しいでしょ? スペイン語が話せるメガネ女子を知らない?」
「さ、さあ? そんな方いますかね~聞いたこと無いですね~」
冷や汗を掻きながらも、絵里は一礼してから廊下に出た。
鞠子には取りあえず、今聞いた話を知らせて注意するように言っておこうと決めていた。