もう一度あなたに恋したときの処方箋
どうして
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高木さんに会ってから、仕事がはかどらなくて困った。
落ちつこうと思えば思うほど、心がざわついてしまうのだ。
こんな時はエリちゃん誘って飲んで帰ろうと思い立ち、午後六時きっかりにパソコンの電源を落としてロッカールームに向かった。
メッセージを送ってみたが、今日は仕事が終わらないとの返事だった。
(残念……)
ひとりで部屋飲みしようと会社を出ようとしたところで呼び止められた。
「篠原くん」
聞き覚えのある声だった。振り返ると、やはり高木さんが立っていた。
「チョッといいかな」
ちっともよくない。
高木さんから声を掛けられただけで、周囲の女子社員たちの冷たい視線を感じる。
(なんで帰宅時間に声掛けてくるかな)
顔に出さないようにしながら、私は心の中では高木さんに文句を言っていた。
(女子社員が一番会社周辺にいる時間帯なのに、なにを考えているのだろう)
いや、本人はまったく気にしてないのかもしれない。
「何かご用でしょうか。高木次長」
周りに仕事上の話だと思われるよう、少し大きな硬い声で応対した。
とにかく女子社員たちに誤解されたくない。
「今日の話をもう一度聞いてもらえないかな」
優しく話しかけてくれたけど、私は仕事モードで返事をした。
「岡田部長の案件でしたら、明日の勤務時間内にお願いします」
ペコリと頭を下げて帰ろうとしたけど、まだ話しかけてくる。
「いや、昼間は忙しくてゆっくり話せなくてね。そんなに時間取らせないから頼むよ」
私は返事をする前に腕をつかまれて、会社の前に停まっていたタクシーに放り込まれた。
なにが起こったのかわからないくらい、あっという間のことだった。