もう一度あなたに恋したときの処方箋



***


相手のあっさりした態度に、憲一は面食らっていた。
女性からこんな扱いを受けたのは、彼にとっては初めての経験だ。

彼女はこちらが話している間は食べてばかりだったし、仕事の話にも頷くだけだった。
しかも、食事が終わるとさっさと帰ってしまった。

(こんな子もいたんだ)

彼の知る女性たちは仕事の会食でも煩いほど話しかけてきたし、食事の後は飲みに誘ってくるのが常だった。
それ以上の一夜の誘惑だってざらにあった。

憲一は中学高校時代にはサッカー選手を目指していたせいか、いつも女子からキャアキャアと騒がれてきた。
当時は練習に明け暮れていたから、特定の彼女を作る時間なんてまったくなかった。

大学生になってからは、男として人並みに女性と付き合いはした。
だが、それは恋と呼べるものではない。
自分から追い求めなくても、数多のアプローチの中から『彼女』は手に入るものだった。



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