もう一度あなたに恋したときの処方箋


***



今夜も憲一の機嫌は最悪だった。記者会見で発表するコメントのオーケーがなかなか出ないのだ。
すぐに会見の準備に入らないと、年末のレセプションに間に合わないと言うのに。

(岡田部長ものらりくらりと上の顔色を窺ってるからな)

岡田は上昇志向がなさそうに見えて、以外に強いのかもしれないと気が付いた。
確か自分とは同じ大学の出身だから、派閥は一緒だったはずだと心の中で考えを巡らせる。

疲れた身体で事業本部に戻ると、ガラスで仕切った奥の部屋に見慣れない女子社員がいるのに気が付いた。

(あんな髪の長い子、この部屋にいたっけ)

ガラス越しによく見ると、部屋の端っこは篠原鞠子のデスクだ。
不思議に思ってそっと近付いた。

(データを盗んでるのか?)

パソコン画面に向かっている女性が不審人物だったら大変だ。
その女性は仕事に集中しているのか、そっと近付く憲一に気付いていないらしい。

隣のデスクに手をついてから、その女性の顔を覗き込んだ。

「あれ? 君は……どこかで……」

疑問に思った心の声が、漏れていたらしい。その社員がこちらを向いた。

「あれ?」

「あっ!」

変なハモり方で、ふたりの声が重なった。


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