もう一度あなたに恋したときの処方箋
新宿の狭い路地を入ったところに、お目当ての小料理屋はある。
和服の似合う女将さんと恰幅のいいご主人が経営している、家庭的な雰囲気のお店だ。
お酒の種類が豊富な上に料理も安くて美味しいから、私たちより何代か前の先輩が見つけてからずっと利用させてもらっている。
高木さんに引っ張られるようにして店の奥にある広めの座敷へ入ると、すでに盛り上がっているようだった。
「高木先輩!」
「お待ちしてました~高木次長」
女性陣が高木さんを取り囲んだ隙に、私はエリちゃんの横に滑り込んだ。
「どした?」
心配性のエリちゃんが、真っ先に小声で話しかけてきた。
「帰ろうと思ったら、岡田部長に呼び止められちゃって」
「災難だったね」
「迷惑だよね、急に参加になっちゃったら」
「気にしないで。ひとりふたり増えたってこの店は大丈夫だから」
私はエリちゃんの横に張り付いて、少しばかり食べたり飲んだりした。
そうしながら帰るタイミングを見計らっていたのだ。
なにしろ高木さんは入り口近くでつかまってしまったから、そこを通らないと座敷から出られない。
しかも女性社員や若手の男性社員が高木さんを囲んでいて、スペースがほとんどないから通りにくくなっている。
彼の周りが賑やかなのを確認して、絵里ちゃんに『そっと帰るね』とコッソリ告げた。
「鞠子、あそこ通りにくいでしょ。私も一緒に抜けるから」
「ありがたし。エリちゃん」
ふたりで化粧室に行くフリをしながら、座敷を出ようとした。
「あ、篠原。そろそろ帰るのか?」
目ざとい高木さんに見つかってしまった。