もう一度あなたに恋したときの処方箋
絵里のつぶやき②
鞠子が高木次長に連れられて店に来た時、正直驚いた。
仕事の関係でどうしても避けられないとは聞いていたが、想像以上にふたりの距離が近い。
男性が苦手で、自分からはそばにも寄れなかった彼女が次長と並んで店に入ってきたのだ。
こんな彼女見るのはなん年ぶりだろう。
私は喜ぶべきなのかどうか、迷った。
大学生になったとき、鞠子が憧れた先輩。でも、二度と好きにはならないと泣いていたっけ。
同じ会社だったと知って驚いたけど、まさか同じ部署で働くことになるなんて。
鞠子はなにも言わないが、毎日苦しい思いをしているんじゃないかと心配していた。
だから高木次長と仕事の関係だけなら大丈夫なんだと、今日の鞠子を見て安心もした。
高木課長が女子社員に囲まれると、鞠子はすぐに私の横にサッと座った。
なんとなく、彼の視界から隠れているようだ。
でも鞠子の物憂げな視線は、時おり高木さんへ向けられている。
(ああ、憧れた気持ちを忘れていなかったんだな)
鞠子はお酒を飲む前から少し赤い顔をしていた。化粧っ気のない白い頬に、自然な頬紅をつけた様だ。
メガネや地味な服装で隠しているが、鞠子は美人だ。
チョッと気をつけて見ればわかるんだけど、社内の男どもは彼女が目立たないよう振舞ってお洒落をまったくしないから見逃しているだけ。
だけど、高木次長は鞠子の美しさに気付いてる?
けっこう熱い視線を鞠子に送っている。
他の人にはわからないだろうけど、私が鞠子を気にかけているから気付いたんだ。
(どうして、今頃になって?)
あの社内で一番モテる人が、鞠子のことを意識しているんだろうか。
(どうしよう。鞠子……)
鞠子が一番避けたい相手から、どうやらロックオンされてるみたいだよ。
でも、鞠子は気付いていないみたいだし、こんな飲み会は苦しそう。早めに抜け出したい態度がみえみえだ。
親友としては、協力しなくちゃね。
次長のことはまた後日、ゆっくり考えよう。と、のんびり構えていたら事件は起こった。