もう一度あなたに恋したときの処方箋
倒れた鞠子を病院に運んでくれたのは、高木次長だった。
私たちは必死で佐藤と鞠子を追いかけた。
狭い路地の奥で佐藤に絡まれていた鞠子を見つけた時の怒り。
それは高木次長も同じだったらしく、佐藤を投げ飛ばすかと思ったくらいだ。
やっと助け出したというのに、緊張の糸が切れたのか鞠子は気を失ってしまったか。
焦ってしまってどうしていいかわからなかった私よりも、高木課長は行動が早かった。
呼吸は落ち着いているから救急車よりタクシーが早いと言って、抱き上げて表通りまで出てタクシーに乗せてくれたのだ。
(鞠子には言えないけど)
ただ残念なことに佐藤正樹の姿はいつの間にか消えていた。
救急病院で診察してくれたドクターによると、鞠子は軽い脱水症状と貧血があるらしい。
ひと晩入院して、ゆっくり休むことになった。
あてがわれた個室で点滴が始まると、すぐに鞠子は気が付いた。
「エリちゃん」
「気が付いてよかった。びっくりしたよね、鞠子」
「うん」
「今夜は入院だって。あたし、手続きしてくるからゆっくり休んでて」
鞠子を安心させようと手を握ったら、弱々しいが握り返してくれた。
「ありがと」
ポトポトと落ちる点滴を見ながら答える鞠子の声はとても小さい。
表情も抜け落ちていて、ショックから立ち直れていないようだ。
なんだか私まで涙が出そうになってきた。
どうして鞠子ばっかりこんな目にあわなくちゃいけないんだと、佐藤への怒りが湧いてくる。
そっと病室を出ると、高木次長に呼び止められた。
彼は鞠子の意識が戻るのを、ずっと廊下で待っていてくれたらしい。
「日下さんは篠原さんと入社してからの友人なの?」
「いえ、もっと前からの付き合いです」