もう一度あなたに恋したときの処方箋



「高木次長とアイツが兄弟だとは知りませんでした。悪口は言いたくないですけど、結構彼の被害者はいるんです」
「被害者?」

「ご存じありませんか? 女性に手が早いって」

「実は母が離婚してから俺は父親と疎遠だから、あまり義弟とは付き合いがないんだ。申し訳ない」

「鞠子は厳しい家庭で育ったので、大学生活を楽しみにしていました。でもその矢先に、あなたたち兄弟に鞠子は傷つけられたんです」

「それは……知らなかったでは許されないな」

憲一は深いため息をついた。

「とにかく、今、私がお話出来るのはここまでです。あとは鞠子ときちんと話をするか、なにも聞かなかったことにしてこれまで通りに過ごすか、次長のご判断にお任せします」

「わかった。ありがとう」

日下絵里はすべて言いきったのだろう。
どこかホッとした表情で事務室の方へ歩いて行った。

俺は篠原鞠子の顔を見たい気持ちもあったが、今の話を聞いた以上簡単には会えないと思い知った。

大学生の頃には戻れない以上、彼女との出会いは二度とやり直せない。
義弟のやらかしたことを知らなかった以上、俺も同罪だとしか思えない。

どうすれば彼女に謝罪できるのか、そればかり考えていた。





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