もう一度あなたに恋したときの処方箋
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憲一はどうしても鞠子と話しがしたかった。
翌日、面会時間が始まる十時に合わせて小さな花束を持って鞠子の見舞いに訪れた。
ノックをすると、小さな声で返事が聞こえた。それから憲一はゆっくり個室に入った。
鞠子がドアの方に目を向けて、驚いた表情をしている。
まさか憲一が来るとは思ってもいなかったのだろう。
「大丈夫か?」
「昨夜は……お手数おかけしてすみません」
「いや、気にしないでくれ。それより、少し話せるかい?」
「午後には退院ですし、もう大丈夫です」
少しベットに近づいて、憲一は頭を下げた。
「日下君から聞いたよ、大学時代のこと。本当にすまなかった」
「高木さん」
「知らなかったとは言え、義弟のしたことに気付かなかったのは俺の責任だ」
頭を下げたまま言葉を続けたが、帰ってきたのは固い言葉だった。
「なにに対しての謝罪でしょう?」
「義弟の話を鵜吞みにしてしまったこと。あんなことが合宿で起こっていたなんて、サークル副代表だった俺がうかつだった」
「もうなん年も前の事ですから、頭を上げてください」
鞠子はこの話はしたくないのか、黙り込んでしまった。
「もう少し近くに寄っても平気かな?」
憲一の言葉に彼女は目を見開いた。
「エリちゃんから、私のこと……なにか聞いたんですか?」
さっきまでの固い声ではなく、少し震える弱々しい声だ。
「この前会社で君に手を伸ばした時に、全身で俺を拒否したのを思い出したんだ。もしかして、義弟の事があって……」
言いきる前に、鞠子の方から口を挟んできた。
「そうです。あの夜から、私、男の人が苦手になりました」