もう一度あなたに恋したときの処方箋
自分からは言いにくかっただろうに、鞠子は堂々としている。
「君は倒れたばかりだ。無理はさせたくないが、俺の話を聞いてくれるか?」
ひとりだけに辛い話をさせたくなかった。
横になったままだが、コクンと頷いてくれた。
「俺とアイツは、姓が違うだろう?」
憲一は自分の過去を聞いてもらいたくなっていた。鞠子には素直になれる自分がいた。
ベッドから少し離れた位置にパイプ椅子を置いて座ると、ゆっくり話し始める。
「俺の母親と離婚して、すぐに父親が再婚したんだ。正樹は二つ下だが、いきなり弟だと言われた」
「それは、もしかしたら……」
「親父は母と結婚していた時から浮気してたんだ」
父は浮気を繰り返すようなどうしようもない男で、憲一のことを嫌っていたことも話した。
父親と同じになりたくなくて女性と深く関わってこなかったことなど、これまで誰にも打ち明けていなかったプライベートな部分を話してしまった。
何故、鞠子に告白しているのか、憲一自身にもわからなかった。
ただ彼女に聞いて欲しかった。
「何故かアイツは俺と同じ大学に入って同じサークルに入会してきた。俺は相手にしていなかったから、日下君に聞いて驚いた。君や大勢の女の子達に迷惑をかけていたそうだ」
「はい。そうらしいです」
鞠子は表情の抜け落ちた顔のままだ。聞きたくもないのに、俺の話を受け入れてくれているのだろう。
「なんて謝ればいいのか……アイツがなにを考えていたかわからない。大学在学中から留学していたらしいが、お恥ずかしいが、今どこに住んでどんな仕事をしているかすら知らないんだ」
憲一は、得体の知れない義弟の仕出かした事実を受け入れるのがやっとの状態だった。
「君には、誠意を尽くしたい」
鞠子へはその言葉しか言えなかった。