もう一度あなたに恋したときの処方箋
ひたすら頑張ったご褒美か、私は東京の有名大学に合格できた。
お姉ちゃんは大喜びしてくれて、スペインから学費の援助までしてくれたのだ。
私はやっと田舎から抜け出せた嬉しさと、思う存分青春できる喜びで舞い上がっていた。
幼馴染で同級生のエリちゃんも学部は違うが同じ大学に進学し、ふたり揃っての東京デビューに浮かれた。
髪を染めて、お化粧して、流行の洋服を研究した。
そして雑誌でしか見たことのなかった東京の街に繰り出した。
渋谷、原宿、青山、新宿……どこに行ってもウキウキしたし『恋人作るぞ!』と、エリちゃんと誓い合ったのも懐かしい思い出だ。
これまで男の子と交際した経験のない私には、グループで付き合うのだってハードルが高かった。
それでもゴールデンウイーク明けには、なんとか男の子とふたりでお茶したり映画に行けるようになっていた。
エリちゃんに誘われてフットサルサークルに入ったのはその頃だ。
フットサルコートであの人を見かけた瞬間、心臓が急にドキドキして身体中の血液が逆流するかと思った。
(これって、恋⁉)
ボールを蹴って走っていた姿を見ただけなのに、あの人のことがもっと知りたいと思ったし彼女がいるのか気になった。
憧れの人の名前は 高木憲一。経済学部の三年生。
彼はサークルの副代表で、高校時代はサッカーのクラブチームに所属してたらしくフットサルがとても上手かった。
スポーツ好きのエリちゃんに誘われたときは遠慮したかったけど、高木さんの存在を知ってすぐにオーケーした。
少しでも近くにいて、彼に私を知って欲しかった。
エリちゃんに『高木さんのこと考えたら、胸が苦しい』と訴えたら、『諦めなよ。恋わずらいに効く薬なんてないよ』と笑われてしまった。
『ひとめ惚れだね』とエリちゃんにからかわれたけど、高木さんの噂話をするだけで嬉しかったし、時々は一緒のチームでプレーするだけで幸せだった。
あの夜までは。