もう一度あなたに恋したときの処方箋


こんなので就活大丈夫かなと心配していたら、総合商社のシステム開発の仕事をゼミの教授が請け負った縁でチャンスが訪れた。

『SKホールディングス』に推薦してもらえたおかげで、試験を受けて無事採用された。
理系の私にはありがたい、コンピューター関係の部署に配属されたのだ。

相変わらず男性と話すのは苦手だから、普通の社内業務や営業は無理だろう。
だから一日中でもコンピューターと向き合っていられるなんて最高だ。

私はおしゃれからも遠ざかっていた。
髪を染めたのも大学に入った年だけだったし、色鮮やかな服も着なくなった。

だから会社に行く時は、いつも白のシャツに、紺かグレーのパンツスーツを合わせるだけ。
髪は伸ばしてひっつめているし、前髪は長めに下ろして地味なメガネで武装した。

わが社は大手商社だけあって、他の部署には綺麗な女性ばかりだ。
ひがんでいるわけじゃあないけれど、女子社員はみんな男性社員と楽しそうに仕事してるように見える。

私にはムリなことだから、かえって憧れるくらいだ。
未だに男の人に対して恐怖心が先にたってしまい、自分からは近寄れない。
普通に男の人と話せない以上、目立たないように過ごすのが一番だと諦め気分だ。

システム開発部の仕事は黙々とパソコンに向かえばよかったし、部内の人たちも会話するより要件はメールで送った方が喜ぶくらいだ。
私にはとっても居心地のいい部署だし、エリちゃんもちゃっかり同じ会社の総務部に入社しているから楽しく過ごしている。

こんなに恵まれていていいのかな? と思うくらい穏やかな日々だった。



***



高木さんは、『彼女とじゃれてた』 なんて佐藤の言い訳を今でも信じたままなのかな。
本気で私のこと、淫乱な女だと思ったのかな。

私は、母のような『恋多き女』ではない。
今となっては誤解を解くチャンスもないし、どうしようもないとわかっている。
でも、消せない痛みが胸の奥に残る。
あの夜から一番好きだった人は、私の中で一番会いたくない人になってしまったのだ。





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