もう一度あなたに恋したときの処方箋
絵里のつぶやき①
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私は、篠原鞠子の親友の日下絵里。
鞠子に出会ったのは小学生に入る前だった。
私たちの暮らしていた地方は北陸の城下町で、近所の人とは何代にもわたってお付き合いがあるような土地柄だ。
そこで鞠子とお姉さんの柚子さんは、ちょっとした有名人だった。
なにしろふたりのお母さんは二度の離婚に懲りずに、三回目の結婚をして北海道へ行ってしまったのだ。
しかも、娘たちは実家に置いていくという徹底ぶりだ。
鞠子のお姉さんの柚子さんは、とっても可愛らしい人だった。
か弱い外見とは反対に、しゃべると結構ハキハキとした勝気な人で、よくお祖母さんと迫力ある喧嘩をしてたのを覚えている。
それを小さい頃から見ていたからか、鞠子は内気で大人しい子だった。
背が高いのを気にしてるのか、ちょっと猫背気味で口数も少ない。お姉さんとはタイプが全然違っていた。
実は私、小学生の頃はいじめられっ子だった。
自分で言うのは恥ずかしけど、いわゆる社長令嬢だったからお嬢さま育ちで我儘な子だったんだ。
だけど父の会社が傾いちゃって、私立の小学校から公立の小学校に転入したの。
そしたら、偉そうだってクラスではハブられて誰も口きいてくれなくて孤立してしまって……。
後はお決まりのパターン。上靴は捨てられるし、宿題のプリントも破られちゃった。
毎日泣いていた時に、鞠子が救ってくれたんだ。
私を庇ったら自分が標的になるかもしれないのに、大きな声で『やめなさい!』って叫んでくれたの。
あの猫背でいつも俯いてた子が、ありったけの勇気振り絞ってくれたんだろうなって思うと嬉しかった。
結局、小学を卒業するまでふたりしていじめられちゃった。
でも、鞠子とふたりだから耐えられた。ふたりだから頑張れた。
私『鞠子がピンチはの時は私が全力で守る』って、その時に決めたの。
まさか憧れの東京デビューしてすぐに、その誓いを実行する日がくるとは思わなかった。