イケメン検事の一途な愛
「お気に入りだったのに…」
脱衣所のダストボックスに捨てられた水玉柄のシフォンブラウスとブラジャー。
見たらあの男を思い出しそうで。
写真集の撮影で訪れたフランスで一目惚れで購入した水玉柄のブラウス。
若手デザイナーによる1点ものだったのに…。
幼い頃の記憶がなく、養護施設で暮らし、その後養子縁組により新しい家族に恵まれた。
何が原因で記憶を失ったのかすら分からない。
覚えているのは、『桜色の傘と水玉柄のワンピース』が好きだったという事だけ。
もしかしたら、実の母が好きで着ていたかもしれない。
雨の日に桜色の傘をさして、迎えに来てくれた記憶なのかもしれない。
そんな風に思えて、水玉柄に愛着がある。
勿論、桜色の傘と雨の日も。
今日は朝から小雨が降り続いてて、気分的にはいい日だったのに……。
鏡に映る自分を見つめ、無意識にため息が漏れだした。
*****
「え?もう1回、今何て?」
「だから……」
翌朝、自宅に迎えに来たマネージャーに昨夜の出来事を話す。
こういうことはたまにある。
事務所が売り込むために送り込んだわけではなく、協賛会社社長の傲慢な思考が暴走し、監督を捻じ伏せたのだろう。
若手の監督ではあるが、作品が良かったため出演を決めたのに。
恩を仇で返されたような。
「社長に報告しますね!辞めましょ、そんな映画。馬鹿にしてますって!」
「違約金云々言って来たら、これ使って」
スマホに残されている証拠写真を見せると、マネージャーの山ちゃん(山本 栞)は絶句した。