イケメン検事の一途な愛


「顔が売れてるからって、いい気になんなよっ」
「痛っ」

イカれてるとしか思えない男は女性をエレベーターに乗せないように髪を掴み、女性が怯んだ隙に女性の腕を強く引いた。
その反動でクラッチバッグが床に落ち、そこから彼女の携帯が俺の足元に飛ばされて来た。
無意識にそれらを拾い上げ、ドアの【開】を押す。
隅に移動していた為、男から死角になっているようだ。

チッ。
仕事でもないのに、こういうのはマジでやりたくないんだが。

最高検察庁 刑事部所属の検事。
悪業を見て見ぬふりは出来ない。
見るからに犯罪の匂いがプンプンする。

ドアの【開】ボタンを連打しながら、ドアを掴む女性の手を男にバレないようにツンツンと指で弾き合図を送る。

俺の気配に気づいた彼女は一瞬だけ視線をこちらに向けた。
あっ、マジでヤバいな、これ。

水玉柄のシフォンブラウスは引きちぎられ、水色の下着が丸見え。
ドアが閉まらないように右手で押さえ、左手は男に掴まれているから胸元を隠すことさえ出来ず。

シニヨン風に纏めてあったであろう髪は見る影もなく乱れ、無理やりキスでもされたのだろうか?
口紅が頬にまで崩れている。
腕を掴む男から逃げたい一心の女性は、俺にかまう余裕すらない。

「ロック解除して」

俺は死角に隠れた状態で小声で囁く。
拾い上げた彼女の携帯を彼女の指先に持っていく。
そして、襟元のバッジを指差して…。

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