イケメン検事の一途な愛
彼の自宅マンションへと帰る途中で、どこかで食べて帰ろうという流れになった。
彼にはすっぴんを既に晒しているが、食べるとなるとマスクを取らなくてはならない。
『来栖 湊』だとバレないだろうか?
不安に思いつつも、彼は特別気にする様子もなく。
そんな彼の言葉と態度に呑まれ、了承してしまった。
飲食店を探すなら、渋谷駅周辺の方が軒数が多い。
けれど、それだとバレるリスクが俄然高くなるため、彼はそれを気遣ってか反対方面へと歩き出した。
飲食店の軒数は極端に少なくなるが、それでも美味しいお店は幾つもある。
他愛ない話をしながら歩いていると、ふと視界に入った懐かしいお店の看板が。
「あそこのお店、美味しいんですよ」
「あ、うん。……知ってる」
知ってるんだ。
大通りにも面してないお店なのに。
誰と来たの?いつ来たの?
そんな野暮なことは聞けない。
「昔、両親と一緒に大好きだった男の子と食べに来たんですよね~」
「…………え?」
彼との思い出はまだほんの一部しか思い出せてない。
3年もの間、毎日のように一緒に過ごした仲なのに。
断片的に覚えている程度。
両親との記憶も曖昧な部分が多く、色んな景色を眺めながら脳内を整理していた、その時。
「美雨………ちゃん?」
突然、名前を呼ばれた。
………久我さんに。
「なぜ、………その名前を?」
本当の自分を知ってる人しか知らない名前を。
彼はどうして知ってるの?
「榊………美雨」
「だから、どうして、……その名前を?」
瞬きも忘れて彼を見つめると。
「君の言うその男の子は………目の前にいる」
「……へ?」
「……やっと、会えた」