イケメン検事の一途な愛

視線を合わせるだけでも吐き気を催すほど気持ち悪くて。
一目散にドアへと駆け出す。
ドアに手を掛けた、その時。
背後から羽交い絞めにされた。

アクションシーンに役立つというので多少は格闘技を習ったが、いざという時はそんなこと役に立たないと初めて知った。

半ば引き摺られるように部屋へと戻されつつも必死に抵抗して。
自分の身に何が起きてるのかすら、感覚がなくなるほどの恐怖に駆られる。

「随分と酔われているようなので、休まれた方が宜しいのでは?」
「お前も一緒にな」

情欲を含んだ笑みは恐怖でしかない。
一瞬怯んだその時、床に倒され、頭と肩に強い痛みを覚えた。
視界が朦朧としながらも、手にしているクラッチバッグで男の顔めがけて何度も振る。

胸元が露わになったのがなんとなく分かったが、そんなことをいちいち確認している余裕もなくて。
男から逃れようと罵声を浴びせながら必死に膝を立てて急所を蹴り上げた。

覆いかぶさっていた男が床に転がった。
唸っている様子からすると、多少なりともヒットしたようだ。

感覚のない足取りで立ち上がり、部屋を飛び出す。

震える足。
エレベーターの場所すら思い出せない。
無我夢中で廊下を突き進んで、やっとの思いでエレベーター乗り場に辿り着いた。
【▽】のボタンを連打する。
こういう時に限って何ですぐ来ないのよっ!
降りた階数が25階だったはず。
震える足では、階段で降りれる状態じゃない。

火災報知機でも押した方がマシかも……。
そんな思考が働いた、その時。
エレベーターのドアが漸く開いた。

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