イケメン検事の一途な愛
ゆっくりと彼の影が降って来る。
思わず瞼を閉じた。
「そういうことを男の前で簡単にしちゃダメだよ」
耳元に囁かれるその言葉で、胸がぎゅっと摘ままれた気がした。
仕事とはいえ、何十回。
ううん、リハやカメラテストも合わせたら何百回とキスしてる。
彼を目の前にして、途端に後悔に襲われた。
仕事だと割り切って来たし、気持ちを込めて演技して来たけど。
一度だって心を奪われたことはない。
こんな風に熱い視線を向けられたら、どうしていいのか分からない。
ドラマや映画なら脚本にト書きが記されているのに。
彼が触れる部分に熱を帯びる。
演技して来て一度も味わったことのない感情。
『安心』と『幸せ』だ。
いつだって彼は私を壊れ物を扱うみたいに優しく包み込んでくれた。
雨の日だって嫌な顔一つせずに一緒に傘を差して隣を歩いてくれた。
両親以外で本当の私を知っている、唯一の人。
「何か作って。……簡単なものでいいから」
「………はい」
「検視と現場検証して来たから、先にシャワーしてくる」
「あ、……はい」
彼は頭を優しくポンポンと撫でて部屋へと。
何期待してるんだろう私。
好きだったのは私だけなのに。
彼は行方知れずだった幼馴染に久しぶりに会えて嬉しかっただけ。
ただそれだけなのに。
心のどこかで淡い期待を抱いてる自分がいる。
*****
冷蔵庫にあるもので夕食を作る。
養父との生活の中で、家政婦さんから家事を教わった。
少しでも養父に恩返しがしたくて。
だから、最低限の生活力はあるはず。