イケメン検事の一途な愛
揶揄っただけなのに。
彼女は頬を紅潮させて視線を泳がせた。
「冗談だって」
「え?」
「ゆっくり入っていいよ。俺、本館の大浴場に行って来るから」
「あ、………はい」
何、そのホッとしたような表情。
なんかショックなんだけど。
24時間、俺を意識して欲しくて……。
安堵して油断している彼女を背後から抱き締めた。
びくっと体を震わせる彼女。
そうそう、こういう反応が欲しいんだよ。
完全に硬直している彼女を更にきつく抱き締め、そっと呟く。
「浴衣姿、……見たいな」
「え?」
俺の言葉に反応するように彼女は振り返った。
自然と近づく距離。
今にも唇が触れてしまいそうなほど近くて。
仕掛けた俺がドキッとしてしまった。
「久しぶりに長距離運転したから、湯に浸かってくるな」
彼女の頭を優しくポンポンと撫でて、その場を後にする。
彼女を背にして軽く手を振りながら……。
彼女に内心を悟られまいと足早に。
本館の大浴場は露天風呂になっていて、オーシャンビューが一望できる。
夕陽が今にも沈みそうで、つい見入ってしまう。
この景色を彼女とゆっくり堪能出来たらもっと良かったんだろうけど。
久しぶりにサウナに入り、体をリフレッシュさせる。
自宅と職場と行き来し、膨大な書類を裁き、真実を明らかにする為に常に限界まで自分を追い込む日々。
『彼女を探すため』に目指した道。
15年かけて、漸く見つけた『初恋の子』。
目標を達成してしまい、心の奥が微睡むような少し覇気を失ったような自分がいる。
仕事に対しての意欲が消えたわけじゃないんだけど……。