イケメン検事の一途な愛
彼女がこの先の人生を迷うのも無理はない。
失った過去と現実の折り合いをつけるように。
俺もまた、自分の心に折り合いをつけないとならない。
検事を辞めて『医師』を目指すべきか。
それとも、このまま『検事』を続けるべきか。
はたまた、収入の多い『弁護士』に転身すべきか。
『検事』という職種は決して簡単になれるものじゃない。
なのに、給料は全く見合ってなくて。
国家公務員だからたかが知れてる。
年収にして1000万未満。
昇給して階級が上がれば多少は増えるが、それでも億稼げるわけじゃない。
『来栖 湊』として彼女が1カ月に稼ぐ収入より少ないかもしれない。
家や車は所有していても、今の俺では彼女に釣り合わない。
お金が全てじゃないことも承知している。
だけど、やっぱり何て言うか……。
この先、彼女と付き合うようになったとしても、その壁は越えられそうにない。
サウナから出た俺は水風呂に浸かり、邪心を払うように心を無にする。
彼女を旅行に連れ出したのは、彼女との関係をリスタートするためだけど。
本当は自分の立ち位置を把握するための旅行だ。
これまで彼女のことしか頭になくて。
探し出すことに全力で生きて来たようなもの。
『自分』というものが一つもなかったことに気付いた。
彼女の隣を堂々と歩くために、今後の身の振り方を考えなければ……。
*****
浴場を出た俺は浴衣姿でカタカタと下駄を鳴らし、彼女がいるビラへと向かう。
夜風が心地よく、腕組して思わず足を止めた。
眼を閉じて静かに葉音を感じていると。
「んッ?!」
「ビックリした?」
浴衣姿の彼女が抱きついて来た。