イケメン検事の一途な愛
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バッグから名刺を取り出し、まじまじと見る。
「本当なのね」
名刺には彼が言っていたように検事の肩書が書かれている。
映画で弁護士役をやったことがあり、その時に検事役の俳優の襟元に輝く検事バッジを見たことがある。
まさか、撮影以外で目にするだなんて……。
ちょっとぶっきらぼうな感じの口調だったけど、態度は終始紳士的だった。
最悪の男との乱闘直後だったからか、彼からは安心感しかなかった。
不意に彼の横顔を思い出す。
フフッ、あれこそドラマの世界だわ。
俳優顔負けの美顔にモデルと見間違えそうなスタイルで。
「どうやって返そうかな」
そもそも、私のこと知らない感じだったし。
普段見慣れている、好奇なものを見る視線では無かった。
テレビをつければ、どこの放送局でもドラマやCMで見ない日は無いはずだし。
街を歩けば、至る所に広告として私がいるはず。
スーパーやコンビニでも目にするはずなんだけど?
あ、そうか。
顔が認識できないくらい酷かったんだわ、恐らく。
「シャワーでも浴びなきゃ…」
男の唾液が首筋についてるかと思うだけで吐き気がぶり返す。
全てを洗い流したくて浴室へと向かった。
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あちこちに擦り傷のようなものと鬱血した痕がある。
思い出したくもないのに。
何度も何度も洗い流して……。
タオルドライした髪にヘアミルクを馴染ませ、毛先にオイルを重ね付けして。
丁寧にドライヤーで乾かしながら、ジャケットの返却方法を悩みあぐねていた。