離婚予定の契約妻ですが、クールな御曹司に溺愛されて極甘懐妊しました
 言いながら肇はまた瑠美の腰に手を回し抱き寄せた。

 純玲は唖然と立ちつくした。強く握り過ぎた両手が少し震えていることに気がつき、我に返る。
 
 しかし、声を発することもできず、純玲が選んだのはただそこを立ち去ることだった。



 その後、どうやって自宅に帰ったのかあまり覚えていない。

 ひとり暮らしをする高円寺のアパートにつくと、習慣のまま手洗いうがいを済ませ着替える。
 普段ならこの後夕飯にするのだが、当然食欲などわくはずがない。

 純玲は部屋の奥にある小さなベッドの前に膝を付き上半身を突っ伏す。

「私……肇さんにあんな風に思われてたんだ」

――彼らが言っていたことは事実も含まれている。

 オノデラ貿易は3代続く歴史ある貿易会社で現在は素材関係の貿易の取引を主に行っている。

 純玲の父、小野寺道隆は代々オノデラ貿易を経営する小野寺家の長男、純玲は一人娘である。

 しかし純玲は両親との血の繋がりはない。

 純玲の実父は実母と結婚する前に亡くなったと聞いているが、それ以上のことは誰も知らないらしい。

 ひとりで純玲を育てていた実母は5歳の時に病気で亡くなった。
 母雪乃が実母の親友だったことから、身寄りのない純玲を小野寺夫妻は特別縁組の形で養子にしてくれた。
< 11 / 248 >

この作品をシェア

pagetop