離婚予定の契約妻ですが、クールな御曹司に溺愛されて極甘懐妊しました
 父も母もいなかったと思う。珍しく小野寺家の家政婦が純玲を公園に連れ出したのかもしれない。

 その時ベンチに座っていた男の人に話しかけた。
 知らない人に自分から話しかけるなんてしたことがなかったので記憶に残っていた。

「話した内容は覚えてないですけど、その後お手伝いさんにこっぴどく叱られたことはよく覚えてます」

 おそらく家政婦が目を離した隙に行動したのだろう。すごく怒られた。

「今思うと、ちょっと危険ですよね」

「残念ながら子供が被害にあう事件は昔から断たないからな。俺でもこっぴどく叱ったと思うぞ」

「ですよね……」

 暫くすると、泰雅が「聞いてもいいか?」と口を開く。

「純玲は、実の父親に会ってみたいと思ったことはないのか?」

 思いがけない質問だったが、純玲は思ったまま答える。

「もちろん会ってみたかったです。血が繋がった親がどんな顔や性格をした人だったのか純粋に気になりますし……でも、亡くなっているからどうしようもないなって思ってます。写真くらいあればよかったんですけどね」

 純玲の父親のことは純玲が生まれる前に亡くなったということ以外何もわかっていない。
 実母が誰にも告げないまま他界したからだ。
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