離婚予定の契約妻ですが、クールな御曹司に溺愛されて極甘懐妊しました
 純玲は思わず足を止めその場に立ち尽くしていた。
 泉が心配そうに顔を覗き込んでくる。

「う、ううん、何でもない」
 
 純玲は上ずった声で誤魔化すことしかできなかった。


「……薄いな」

 社長の声に純玲は我に返った。社長は大きな革張りの執務椅子に座り、にらみつけるようにこちらを見上げていた。
 彼の手元には先ほどお出ししたコーヒーカップがあった。

 動揺を抑えつつ午後の仕事にあたっていたのだが、上の空だったのかもしれない。コーヒー豆の分量を間違えてしまったようだ。

「も、申し訳ありません! すぐに淹れなおします」

 慌ててカップを回収しようとすると制される。

「どこか、体調が悪いのか?」

「いえ、注意力が散漫になっておりました」

 そう言い訳すると、社長の眉間の皺が深まる。

「……集中力が欠いたまま勤務されて大きなミスをされても困る。今日は帰りなさい」

「いえ、社長」

 純玲の言葉を遮るように、社長はスマートフォンを手に取った。

「――神崎、どこにいる?」

 秘書室で雑務をしていた神崎が戻って来る。純玲の顔を見た途端心配気に声を掛けてきた。
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