離婚予定の契約妻ですが、クールな御曹司に溺愛されて極甘懐妊しました
 玄関に迎えに行くと泰雅は屈んで純玲の額に唇で触れる。
 こういう甘いやり取りも久しぶりだ。遅くなる日は先に寝ているように言われるからだ。

「……どうした、元気がないようだが。会社で嫌なことでもあったのか?」

 夕食を取る泰雅を見守っていると、訝し気な顔で尋ねられた。
 妻の表情が冴えないのを察知したらしい。普通にしているつもりだったのに。するどい。

(さ、さすがに切り出すには、まだ心の準備ができてない……)

「え、そうですか? 会社ではなにも。ちょっと胃が重くて、夏の疲れが出ちゃいましたかね」

(実際に会社では社長にうっすいコーヒーを出すという失態をしてしまいました。それよりも、あなたに切り出す勇気が持てないこともあります……)

 そうは言えずに、純玲は咄嗟に取り繕う。もう今日は誤魔化してばかりだ。

「大丈夫か? 明後日のパーティまでに良くなるといいが」

 気遣う泰雅の言葉に、そうだったと純玲は思い出した。
 今日は色々あってパーティのことがすっかり頭から抜け落ちていた。

「大丈夫です。泰雅さんこそ、最近物凄く忙しいじゃないですか。私、体調が心配で」
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