離婚予定の契約妻ですが、クールな御曹司に溺愛されて極甘懐妊しました
(私もちゃんとわきまえて、泰雅さんの妻役を果たせるようにしないと。せめて、毎朝起こされないようにしなきゃ)

 純玲は明日こそ夫より早起きしようと気持ちを新たにし、トーストを齧る。

「これ、なにも付けなくても美味しいですね。さすが高級食パン」

「そうか、良かった」

 また見かけたら買ってくると言って泰雅はゆったりと笑った。


 純玲は始業時間前に余裕をもって出勤した。
 高円寺のアパートから徒歩と電車で通っていた事を考えると通勤は嘘のように楽になった。なんせ歩いて20分ほどだ。

 自社ビルのオフィスエントランスを抜け、エレベーターを待っていると、何となく無遠慮な視線が刺さるのを感じた。
 見ると瑠美と親交のある総務の女性達がこちらを見ながらヒソヒソと話している。

 純玲の『結婚間近の相手に振られた女』という噂は消えておらず、相変わらずこのような扱いは続いていた。
 朝から気分が悪いが心の中で溜息に付くだけにして、純玲はエレベーターに乗り込んだ。

 秘書室は役員専用フロアにある。デスクでパソコンを立ち上げ、出勤している先輩方に挨拶をしてから、社長室に向かった。
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