離婚予定の契約妻ですが、クールな御曹司に溺愛されて極甘懐妊しました
 掃除を終え、コーヒーの準備をしようと思ったところでドアが開く。慌てて出迎える。

 純玲は最初に入って来た人物に近付き深々と挨拶をする。

「おっ、おはようございます。百田社長」

「おはよう」
 
 純玲をちらりと見て、短くこたえると百田雄一郎は執務スペースの革張りの椅子に座る。背が高く隙の無い気品と威厳の塊のようなオーラを前にすると、こちらの背筋がビシリと伸びる。というか、蛇に睨まれた蛙のように怯えてしまうといった方がいいだろう。

 新婚生活が始まると同時期に秘書室に異動になった純玲に与えられたのは、この会社の社長である百田雄一郎の第二秘書の職務だった。

 まだ50代の彼はこの百田グループの最高権力者であり、百田財閥創業一族の総帥でもある。5年前に父親である会長が亡くなった後は、より彼に権力が集中している状態だという。

 経営能力は突出しており、時に大胆に切り込み事業開拓をしたかと思う一方、利が無いと判断すれば冷たく切り捨てる。
 その孤高のカリスマ性から『百田の獅子』と呼ばれている。

 なんでも一時失っていた創業者一族の百田グループへの影響力を回復させたのは彼だという。
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