離婚予定の契約妻ですが、クールな御曹司に溺愛されて極甘懐妊しました
 でもそんなことを口に出して言う勇気は持てない。長年仕えている神崎だから言えるのだ。

「実はね。社長、数か月前に心臓の手術をしてるんだ」

「えっ」
 いきなり明かされる事実に純玲は驚く。

 神崎によると社長は純玲が秘書室に来る少し前に心臓の病気で入院したことがあったという。
 カテーテル手術で術後は数日の入院で済んだため、不在は出張扱いにし秘書室内ですら公表はしなかったそうだ。

「若い頃からサイボーグみたいに働きすぎて無理がたたったのかもしれないな。何かあったらまたお家騒動になりかねないからね」

 現社長、雄一郎の祖父にあたる先代の会長は雄一郎が若い頃に亡くなり父が後を継いだが、財閥の長として一族を率いる事ができず、連なる親戚や父が作った妾の子までが、百田の権力に蟻のように群がり一時一族内が混乱したという。

 数年前に前社長が亡くなり、若くして社長になった雄一郎は就任した途端血筋だけで実力を持たない人間を百田から追い出した。現在は彼に権力が集中している状態だ。

(これだけの巨大企業の創業一家を統率するのは並大抵のことではないんだろうな。想像もつかないけど)
 神崎の説明を聞きながら純玲は漠然と苦労に思いを馳せる。
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