離婚予定の契約妻ですが、クールな御曹司に溺愛されて極甘懐妊しました
 彼があの時近くで別れを見守ってくれたのがどれだけ心強かったか。
 その後の展開はいろいろとんでもないものだったが、そのおかげで、もう肇のことを思い出すこともなくなっている。

 契約結婚なんて大それたことをして最初はどうなることかと思っていたけど、こうして適度な関係を保ちながら平和に契約期間の2年が過ぎていくのだろう。

 泰雅は昔からこうして純玲の気持ちを聞き出し、適度にガス抜きをさせてくれる心遣いのできる余裕のある人だ。
 自分は何かと本音を言えずに溜め込んでしまうタイプの人間だからありがたく思う。

「泰雅さん、昔から優しいですよね。私ずっと『白石先生がお兄ちゃんだったらっていいのに』って思ってました」

 恋心を自覚するまでは実際にそう思っていた。感謝の気持ちも込め照れながら言ったのだが、泰雅の声が急に低くなる。

「……そうか。でも今は先生でも、兄でもない。夫だってことを自覚してもらわないといけないな」

「え、自覚?」

 思いがけない反応に思わず聞き返す。

「純玲、君はまだ会社に結婚したことを報告していないだろう」

「あー、あの……えっと」

(まずい)
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