離婚予定の契約妻ですが、クールな御曹司に溺愛されて極甘懐妊しました
 純玲は慌てて泉を止めようとした時、その泉を始めその場にいた人間の視線がいつのまにか純玲の背後に引き寄せられるように集まっていることに気付いた。

「ん?」

 なんだろうと振り返った純玲は思わず声を出してしまう。

「え……泰雅さん?」

 そこにはブラックスーツにキッチリと身を包んだ泰雅が立っていた。
 今朝お見送りした時と変わらず爽やかさで、背筋が伸びた隙の無い立ち姿も堂々として美しい。

 世界線が違うイケメンは存在だけで場の空気を圧倒するらしい。
 今までのギスギスとした雰囲気は突如現れた美男子にすっ飛ばされた。つい自分まで見とれてしまいそうになる。

 しかし、その場の視線を一心に浴びている男の眼差しは純玲にだけに甘く注がれていた。

「純玲、お疲れ様。こちらの法務部での顔合わせが早く終わったから君と一緒に帰りたくて、迎えにきたんだが」

「……そ、そうだったんデスネ」

 “夫”が自社に突然現れたこの状況が理解できないものの、この場をなんとかできないかと思考を巡らせてみる。

(ちょっと待って、ウチの法務部との顔合わせということは、もしかして泰雅さんの新しい顧問弁護士先って……)
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