素直になれないお姫様の初めてのベッド事情
「でしょ」

千歳が、得意げに唇を持ち上げながら、2本目のビールを取り出す。

「あ、私もおかわり」

思わず涙を引っ込めるために、喉に流し込んだカシスオレンジの缶は、空っぽだ。

「だめ、実花子すぐ酔っ払うじゃん」

「仕事納めの日くらい飲ませてよっ」

「だめ。だめったらだめだからね」

もういっそ、とことん飲んでいつもみたいに気づいたら自宅のベッドで朝だったパターンの方が、このまま、涙を我慢しながら、千歳と食事するよりはるかにマシだ。

「子供扱い……しないでよ」

「別に実花子のこと、子供だなんて思ってないよ」

千歳は、いつもと変わらぬ口調で私の前に、水を入れたグラスを置いた。少しだけ流れた沈黙が嫌で私は、無理やり言葉を吐き出した。

「……千歳って何でもできるのね」 

「あ、僕、出来ないことないから」

千歳は、私を眺めながら、唇を引き上げた。

この千歳の自信たっぷりな意地悪な顔は、キライじゃない。むしろ、どちらかといえば、好きだなんて、やっぱり口が裂けても言えない。

「あっそ」

本当、可愛くない返事ばかりしてしまう。
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