素直になれないお姫様の初めてのベッド事情
「ちょっと……早食いすぎない?」

「うるさいわねっ。美味しかった、ご馳走様」

私は、涙が落っこちる前に、急いで目の前の食事を平らげると、器を持って、キッチンの流し台に向かった。

蛇口を捻って、水道が流れる様を見れば、我慢していた涙は、一粒転がった。

慌てて拭えば、私の体は、後ろから、ぎゅっと包まれる。

「……千、歳……」

「実花子が泣くと、僕困るんだけど」

「離して……」

これ以上、千歳に抱きしめられたまま、千歳の子供を宥めるような優しい声を聞いていたら、涙が止まらなくなりそうだ。

「何?理由教えて」

千歳が、可愛い女の子から想いを寄せられていることに嫉妬して、千歳が何でもできてしまうことで、自分を卑下して、更には、食事が終われば、自宅に帰される事が、悲しいなんて、天邪鬼な私が、素直に言える訳がない。

「言わない……もう帰る」

つくつぐ拗らせてるなと自分でも嫌気がさす。

こんな可愛げのない女、そもそも千歳が、好きになるなんて事があるんだろうか。

あのキスだって、好きだという言葉だって、クリスマスの魔法にかけられていただけで、私は、王子様にとっては、一夜限りのお姫様だったのかもしれない。

そもそも、千歳は、心のどこかで、あのお花みたいに笑う、あの子に未だに想いを寄せてるのかもしれない。
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