俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない

「あっ、芙美ちゃんだ」

成田も気が付いたようで足を止める。

俺たちの視線の先には、小学校低学年くらいの女の子の車いすを押しながら、リハビリセンターから出てきた芙美の姿があった。

俺たちの存在には気付いていないようで、車イスの女の子との会話に夢中になっている。ここからだと会話内容まではわからないが、女の子が後ろを振り返り芙美の方を見てはにこにこと笑顔を浮かべている様子に、随分と彼女のことを慕っている様子が見て取れる。

芙美もまた女の子に柔らかな笑顔を返していた。

――あんなに楽しそうに生き生きと働いているのだから、自分の仕事についてもっと父親に胸を張ればいいんだ。

彼女の実家を訪れた日のことを思い出す。

父親から、医者になれなかった出来の悪い娘と罵られても、芙美はなにも言い返さなかった。

すっかり委縮しているようで、両手を強く握りながら唇を噛みしめてじっと耐えている彼女を見ていたら、味方をしてやりたくなった。というよりも、今こいつを守れるのは俺しかいないと思った。

「早瀬くん、芙美ちゃんのことけっこう気に入っているよね」

気が付くと足を止めて芙美のことを見つめていた俺の隣で、成田がそんなことを口にする。

「というよりも、好きでしょ」
「俺が?」
「そう。あのとき、まさか私の提案にあんなにあっさりと乗ってくるとは思わなかったから」

成田が口元に笑みを浮かべて、俺をまっすぐに見てくる。
< 100 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop