俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない
「はぁ……。来週からまた実習か」
陸の大きなため息が聞こえてハッと我に返る。食事を終えた陸がテーブルに顔を伏せて項垂れていた。
無視しようかとも思ったが、つい声を掛けてしまう。
「お前、今の時点でヘバッていたら現場に出てからやっていけないぞ。それに、来年からはそこに国家試験の勉強も加わるからな」
「うわぁ~。どうして早瀬さんは俺をさらに追い詰めるようなことを言うかなぁ」
悪魔だ。鬼だ。と、陸がぶつぶつ呟いているが、俺は真実を伝えただけだ。
「お前は医者になる前にその弱っちいメンタルをまずはどうにかしろ」
テーブルに顔を伏せていた陸が、ふと顔を持ち上げて俺を見る。
「早瀬さんは俺ぐらいの頃にしんどいと思ったことはなかったんですか」
「それを聞いてどうする」
「気になっただけです」
陸の顔が真剣なので、仕方なく医学部時代のことを思い出す。
「強いて言うなら二年次の解剖学だな。長時間のホルマリンの臭いに耐えられなかった」
「ああ! わかる! 俺もでした」
陸が大きく頷いた。それからホッとしたようにため息をこぼす。
「よかった。やっぱり早瀬さんにも苦手なことやしんどいこともあるんですね」
「あたり前だろ。俺も普通の人間だ」
適当に相槌を打って、箸で唐揚げを掴む。