俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない
「芙美ちゃんも早瀬くんと一緒に暮らすようになってそろそろ一ヶ月になるでしょ。あの人の性格もうわかってきたんじゃない? 臭いくらいでつらいと感じるような、そんな繊細なキャラじゃないわよ」
くすっと笑う未華子先生を見ながら、確かにそうかもしれないと納得してしまう。
でも、それならどうして幸也さんは陸くんに医学部時代のつらかったエピソードを尋ねられてホルマリンの臭いなんて答えたのだろう。
「たぶんだけど、芙美ちゃんの従弟くんを早瀬くんなりに励ましたかったのかもね。ほら、共通の話題があれば共感できて、仲良くなれるでしょ」
「なるほど」
ふむふむと頷いてしまう。
ホルマリンの話題のあとのふたりは話が弾んでいた。実習にかなり堪えていた陸くんも幸也さんと話しているうちにみるみる元気を取り戻していたようにも思う。
「早瀬くんはそういう人だよ。ぶっきらぼうに見えて意外と優しい」
未華子先生がにっこりと微笑んだ。
それからランチのカツ丼のお肉をぱくりと頬張り、もぐもぐと咀嚼してから飲み込む。もう一口食べようとして、その手をふと止めた。
「ついでに話すと、早瀬くんが一番つらいのは患者さんが亡くなったとき。これは医療に関わる人間ならみんなそうなんだろうけどね。早瀬くんも強そうに見えて、けっこう落ち込んじゃうの」
愁いを帯びた笑みを浮かべながら未華子先生がお肉を口に放り込んだ。