俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない
私はその患者さんの名前も顔も知らないけれど、亡くなったと聞いて胸が締め付けられるように切なくなる。きっと幸也さんはもっとつらい思いをしているはずだ。
「早瀬くん、たぶん落ち込んで帰ってくるだろうから芙美ちゃんよろしくね」
「私、ですか?」
「そうだよ。芙美ちゃんは早瀬くんの奥さんなんだから、優しく支えて癒してあげないと」
形だけの妻の私にそんなことができるだろうか。幸也さんは私なんかの支えも癒しも必要としていない気がするけれど。でも、彼のためにできることがあるならなんでもしたい。
お昼休憩を終えてからも幸也さんのことが気になってしまい、どう励ませばいいのかをつい考えてしまった。
いろいろ悩んだけれど、私にできることといえば食事を作って、仕事終わりの彼を待っていること。つまり、過度に気に掛けることなく普段通りに振る舞うのが一番いいと思った。
定時で仕事を終えると、スーパーに寄って食材をたんまりと買い込んでからマンションに帰宅。さっそく夕食の支度に取り掛かった。
その日、幸也さんはいつもよりも少しだけ早く帰宅した。
「ただいま。……今夜もまた陸がくるのか」
リビングに入ってきた幸也さんがダイニングテーブルを見る。その上にはふたり分にしては品数の多い料理が並んでいる。