俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない
幸也さんがマグカップを口から離すと、それをローテブルに置いた。
「それで、話ってなに」
「えっ」
ココアを飲む彼に意識を集中させていたせいか思わずきょとんとした顔をしてしまった。幸也さんが不機嫌そうに眉を寄せる。
「えっ、じゃないだろ。お前が少し話さないかって俺を引き止めたんだからな」
「そうでした。えっと、話というのは……」
特にない。幸也さんとまだ一緒にいたくてとっさに出た言葉だったのだが、いったいどんな話をしたらいいのだろう。
とりあえずココアを飲んで気持ちを落ち着けた。そしてふと話題を思い出す。
「あ、そうだ。今日、売店の近くで敏子さんに会いました」
「敏子さん、だと?」
幸也さんの眉間に皺が刻まれる。そのあとで深いため息を吐いた。
「あの人また……。あまり遠くまで出歩くのは禁止だって言ってるのに俺の話をぜんぜん聞かない」
そういえば以前、心臓血管外科病棟で敏子さんに初めて会ったときも、病棟内を移動している彼女を見て幸也さんが病室に戻るよう強く言っていた。
売店で会ったなんて言わない方がよかったのかもしれない。敏子さん、ごめんなさい。
この話はもうここで終わらせようと思ったのだが、主治医としてはこのまま放置できない話題だったらしい。
「敏子さんはなにをしていたんだ」
「えっ、えっと……売店でお菓子を買っていました。スナック系の」
「お菓子だと?」