俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない

 ***

仕事を終えてマンションまでの道を歩きながら、ため息ばかりがこぼれてしまう。

昨日の智花さんの話を聞いて、未華子先生にまでぎこちない態度を取ってしまった。

「どうしたらいいんだろう」

ぽつりと呟いた声は真夏の生ぬるい風に乗って消えていく。

こんな気持ちになるならなにも知らなければよかった。幸也さんと未華子先生は幼馴染で、それ以上でも以下でもない。

ふたりに交際の事実があったと知ってから、私の心は大荒れだ。

私を好きだと言ってくれた幸也さんを信じたい気持ちと、もしかしたら今でも未華子先生を想っているのかもしれないと思う不安がぶつかり合って心を乱していく。

気にしなければいいことなのかもしれない。だって幸也さんと結婚しているのは私だ。

でも、自分が彼に相応しくないことを一番理解しているのもまた私なので、彼の妻としての自信が持てない。

こんな気持ちのまま幸也さんと結婚生活を続けられるのだろうか。口から自然とため息がこぼれたときだった。

少し先にあるバス停に立っているスーツ姿の男性が、突然その場にうずくまり、倒れるのが見えた。
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