俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない

緊急時は住人以外の人も使用できるようにしているのか、エントランスのオートロック扉の外に設置されているのを知っている。それを持ってきてもらおうと思った。

「僕が行ってきます」

大学生くらいの男性がすぐに走り出した。

救急車が到着するまでにはどのくらいかかるだろう。それまでにできる処置があるならやらないと。

こういうときの対応は定期的に行われる講習会で学んでいる。AEDが届くまで、心肺蘇生を試みることにした。

「心臓マッサージ……」

講習のときは専用の人形を使うので、実際に人でやるのは初めてだ。

手が震えていることに気が付いたけれど、私がやらないといけないという強い気持ちを心に込める。

一度ぎゅっと手を握ってから深呼吸を繰り返す。そのうち震えがおさまり、少しは冷静になれた。

男性のスーツの上着を脱がすと仰向けに寝かせて、気道を広げるためそれを首下に差し込んで枕の代わりにした。ワイシャツのボタンを外したものの、肌着は脱がせるのが難しい。はさみを持っているという方から借りると、男性の肌着を切った。

今日はスカートを履いているが、そんなことは気にせずアスファルトに膝を付け、心臓マッサージが行いやすい態勢になる。

胸の真ん中、肋骨の下半分の位置に手を置き、その上にもう一方の手を重ねて置いてから両手の指を互いに組んだ。

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