俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない
本音はお見合いなんかしたくない。地元にも戻りたくなくて、このまま郡司総合病院でクラークとして働きたい。
そんな気持ちを正直に父にぶつけられない自分が情けなかった。
震えそうになる唇をぐっと噛みしめたとき、ふと早瀬先生と目が合った。けれどすぐに逸らされて、頬杖をついた彼の視線が再び窓の外に向かう。
少し開いている窓からは四月の柔らかな風が入り込んで、ぴょこんと寝癖のついた早瀬先生の黒髪をふわっと揺らした。
そんな彼の横顔をちらっと見た未華子先生の目がパッと輝く。
「そうだ! いいこと思い付いた」
未華子先生はテーブルに身を乗り出すと、向かいの席に座る私によく聞こえるように顔を寄せる。
「要は、芙美ちゃんのお父さんが認めたくなるような、とびきり優秀な医者と芙美ちゃんは結婚をすればいいのよね。それならなにもお父さんの決めた相手じゃなくてもいいんじゃない? もっとエリートで将来有望な医者とこっちで結婚しちゃえばいいのよ」
「エリートで将来有望な医者ですか?」
「そうよ。そうすれば芙美ちゃんは地元に戻らなくていいから、ここで今まで通り働ける」
「なるほど……」