俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない
早瀬先生と結婚……。
彼のことが好きだけど、そこまで考えたことはなかった。ただ見ているだけで幸せだったのに、結婚なんてしてもいいのだろうか。
「早瀬先生と結婚できるなんて、とても素敵ですね」
微笑んで答えつつ、心の中では早瀬先生と結婚できるとは思っていない。たぶん彼はこの場の雰囲気で私と結婚してもいいと適当な気持ちで答えたに違いない。
ちょっと軽い言い方だったし、彼の言葉を本気に捉えてはいけない。
もちろん本当だったら嬉しいなとは思うけど、早瀬先生と結婚する未来は微塵も想像ができなかった。
すると、頬杖をついていた早瀬先生の体がピクッと跳ねた。白衣の胸ポケットから青色のストラップがついたPHSを取り出して、素早く耳に当てる。
「早瀬です。……わかりました、すぐ行きます」
どうやら呼び出しがあったらしい。
耳からPHSを離して白衣の胸ポケットに戻した早瀬先生は、食べ終えたお椀ののったトレーを持って立ち上がった。
「先に戻る」
そう口にした早瀬先生と一瞬だけ目が合う。けれどすぐに逸らされて、彼は白衣の裾を翻しながら颯爽とテーブルをあとにした。
「相変わらず忙しい人ね」
職員食堂から出ていく早瀬先生の背中を目で追いかけていると、去ってしまった彼には目もくれず食事に集中している未華子先生が呟いた。
「芙美ちゃんも早く食べないと休憩時間が終わるよ」
「あっ、いけない」
残りの昼食を急いで食べた。