俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない
背を向けると、成田の声が届いた。
「もしかして、お昼のときに話した〝結婚〟のことで芙美ちゃんに用事?」
振り向けば、にやにやと笑っている彼女と目が合う。
「お前が提案したんだろ」
そう言って再び彼女に背を向けた。
背後からなにやら視線を感じる。けれど無視して足を進め、突き当たりを右に曲がれば、それらしき部屋を見つけた。
ドアのガラス部分からは明かりが漏れていて、中を覗けば事務員の制服を着た女性の後ろ姿が見える。
背が低く、胸ほどの位置の長さの黒髪を後ろできっちりと結んでいる彼女は、間違いなく島野芙美だ。壁に向かって黙々となにか作業をしている。
「入るぞ」
ドアをスライドさせて中に足を踏み入れると、島野の体が驚いたように跳ねて、慌てたように振り返った。
「早瀬先生!?」
くりくりとした大きな目を瞬かせながら「えっ、なんで。どうしてここに……」と、ぶつぶつ呟いて、あたふたと動揺している。
その姿が、大型獣に見つかり今にも捕食されそうで慌てふためいている小動物のように見えた。
「ここでなにしてるんだ」
島野のもとに近寄って隣に立てば、壁には折り紙でできたフルーツが飾られている。どうやらこれを貼り付けていたらしい。
りんごやみかん、ぶどう、すいか、メロンなどが折り紙で忠実に再現されている。