俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない
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島野がやって来たのは、それから二十分ほど経過した頃だった。
彼女は俺の車を知らないので、とりあえず職員玄関を出たあたりの道路脇に停めてある車に近付いてきたのか、助手席の窓からそっと中の様子を覗き込んでくる。
運転席にいるのが俺だとわかるとホッとしたように微笑んだ。
腕を伸ばして助手席側の扉を開けてあげると、「失礼します」と島野が乗り込んでくる。その瞬間、またあの甘い香りがした。
「お前が髪を下ろしてるの初めて見た」
助手席に座る島野のさらさらの黒髪に指を通せば、プレイルームで抱き締めたときのように彼女の耳が一瞬で真っ赤に染まった。こいつをからかうのはやはりおもしろい。
「雰囲気変わるな。大人っぽく見える」
「……大人なんですけど」
ぼそぼそと島野が呟く。それが可笑しくてつい笑ってしまった。
「なにか食べたいものある?」
車のエンジンをつけながら尋ねれば、島野はものすごく真剣な表情で考え込む。そこまで悩むことか?
「食べたいものですか。えっと……うーん、なにがいいのかな」
「じゃあ食べられないものは?」
「ないです。なんでも食べます」
「それなら俺が適当に店決めていい? お前に任せていると永遠に決まらなさそうだから」
「はい、お任せします」