俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない
父が湯呑に入った熱いお茶をひとくち飲んでから口を開く。
「きみのお父さんだが、血液内科が専門の早瀬国光教授で間違いないか」
「そうですが、父をご存知で?」
早瀬先生が不思議そうに尋ねた。
彼の父親は東北地方にある大学の医学部で教授をしていると聞いたことがある。その情報は父に伝えていなかったが、口振りからして早瀬先生のお父さんのことを知っていそうだ。
「白血病や悪性リンパ腫などの血液癌の研究を行う早瀬教授の論文を読んだことがある。その分野の第一人者でもあるんだ。知っていて当然。私たち世代の医師は、むしろきみのお父さんを知らない人はいないからな。私が尊敬している医師のひとりだ」
「ありがとうございます」
早瀬先生が丁寧に頭を下げる。
彼のお父さまがそこまで有名な人だとは知らなかった。
「早瀬くんはどうして血液内科を選ばなかったんだ」
父の問いに、早瀬先生は迷わず口を開く。
「父は父、私は私です。そもそも私が医者になろうと思ったきっかけは父ではありません」
「では、どんな理由で医者になろうと?」
早瀬先生は一度父から視線を逸らし、どこか遠くを見つめたあとで再び父の顔をまっすぐに見つめる。